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<  はじめに 緊急提言 2007年10月  >

『 早期療育軽視を正当化させるな! 』


 私は、発達支援施設を専門に設計と研究を行っている建築家です。私は、発達支援を 
行う上で、高い改善効果が期待できると言われている" 乳幼児期の早期療育 "が、最も  
重要な施策の一つと考えております。発達障害者支援法の立案に際しても、この点は、 
大変重要な要素の一つとなっておりました。私は、発達障害者支援法の成立当初、この 
法案により、早期療育の実現が急速に進むものと、やや楽観的に期待しておりました。 
しかし、実際には、有効な早期療育実現が遅々として進ます、それどころか、当初あく 
までも応急策的に設置が進められた"相談機能だけを持った発達支援センター"の存在が、
あたかも発達支援センターのスタンダードのように扱われ、施策の遅れを正当化する免 
罪符として機能しはじめている事に、大きな危機感を感じております。実際、相談窓口 
の設置のみをもって「行政の責任は終了した」と言い切ってはばからない地方公共団体 
すら出はじめております。相談窓口は、確かに重要な機能の一つではありますが、解決 
策を実践する療育の場が存在しなければ、相談の意味を成さないばかりか、不安と絶望 
のみをを増幅させる事となります。現在のこの傾向は、何としても正す必要があり、軌 
道修正を求める多くの声を行政にぶつける必要があります。漠然とした要求では行政を 
動かすことはできません。具体的な成功例を提示し、莫大な予算を投じなくても効果的 
な施策が可能であることを、具体例をもって理解してもらってはじめて自治体を動かす 
ことができます。当ホームページが、少しでもその助力となれば幸いです。      
                                  ( >> 事例紹介はこちら ) 

 もう一つ、現時点で問題と感じる事は、発達支援の窓口が一元化されていないと言う 
点です。発達支援施設の多くは、元々、必要に迫られ、無認可、公的援助無しで、正に 
必死の思いで立ち上げた支援事業がほとんどです。行政側も、後追いではありましたが、
何とか知恵を絞って、予算化に漕ぎつけた苦肉の策の集合体とも言えます。しかしその 
結果として、予算は省庁を跨ぎ、分野を跨ぎ、全容の把握が非常に困難な状況と成って 
います。思い付く物を挙げるだけでも、障害者支援を発祥とする厚労省障害福祉系、子 
育て支援を発祥とする厚労省児童福祉系、小児科病院・検診事業等を発祥とする厚労省 
医療福祉系、就学猶予対策を発祥とする文科省系、大学・短大の幼児教育学部等を発祥 
とする文科省系、キリスト教ボランティア系、その他NPO法人系等々‥、その予算系 
統、連絡系統は多岐に渡ります。実際、そのほとんどは連携されておらず、全容を調査 
した資料もありません。誰がその全容をつかむべき立場であるのかすら現状でははっき 
りしていません。                                   
 しかし、考え方を変えれば、全容は分からなくても、自治体単位で現状の把握を行う 
ことは、十分可能と考えられます。地域によっては、独自に連携を模索し始める動きも 
見られ、着実に成果をあげています。今後、このような流れが、広まることを強く願う 
ところであります。                               

 先にも述べた通り、私は、早期療育を普及させる鍵は、実際に効果をあげている成功 
例を広く知らしめ、同様の公的システム構築を求める声を喚起する事が、最も効果的で 
はないかと考えております。またその際、箱モノ優先に成りがちな行政の動きを抑え、 
何が最低限必要で、何が現場で求められているのかを、具体的に示し、行政を誘導する 
必要があると考えております。そして、そのためには、実際に、先進的に療育が行われ 
ている現場の取り組みを拝見させて頂き、丹念に検証し、建築計画にフィードバックさ 
せていく事が不可欠と考え、またその構築が、発達支援施設の設計と研究を専門とする 
建築家である私の使命とも考えております。今後とも、ご支援ご協力の程、宜しくお願  
い致します。                                           ( >>事例紹介はこちら ) 

                            2007年10月12日 
                      (有)ナカオアーキオフィス 代表取締役 
                             /建築家 中尾 耕二 




<  はじめに 2005年  >

『 やっとスタートラインに立った発達支援。その現状とこれから 』
 
 平成16年12月3日の「発達障害者支援法」成立により、「発達障害」に対する社  
会的理解が、広がりを見せはじめています。テレビや新聞などのメディアでも取り上げ  
られる機会が少しずつ増え、4月1日から本格施行となった同法の今後の成果に、期待  
が高まっています。                                                              

 発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥多動障害(ADHD)、学習障  
害(LD)など、脳に何らかの機能障害あることにより、コミュニケーションや学習など  
発達過程において、様々な困難を抱える障害の総称です。                            

 今回成立した発達障害者支援法で画期的な点は、第一に、知的な障害を伴わない発達  
障害(軽度発達障害)や、障害の判別の難しい乳幼児など、従来の支援制度に乗らない  
様々な障害者に対して、柔軟に、また大幅に間口を広げたことです。第二に、それらの  
障害者に対し、早期発見と早期療育を行い、またライフワーク全般に亘り、厚生労働省  
文部科学省などの枠を超えて継続的に支援を行うこと、そして、それらの支援を、国と  
地方公共団体の責任として行うことが明文化された点です。                          

 4月1日より同法が施行されたことは、支援を求める多く人々にとって、発達支援が、
希望や期待の段階から、具体的な成果を国や地方公共団体へ要求する段階へ入ったこと  
とも言えます。                    ( >> 軽度発達障害とは?『 発達支援を必要としている子どもの数 』

 一方、発達に何らかの問題を抱える「発達支援の対象」となる子どもの数は、児童総  
数の2%とも6%とも言われています。この数は極めて高い割合で、仮に2%としても、
平成15年の全国出生数が112万3千人ですから、その2%は2万2千人となります。
早期療育の対象を1歳から5歳までとした場合、その数は約12万人に上ります。6%  
とした場合は、その3倍の36万人となります。また、発達障害者全体の数は、国内で  
数百万人に上ると考えられます。                                                  


『 今ある発達支援センターの数 』

 厚生労働省が、モデル事業として同法の施行に先立って認定した“発達支援センター”
の数が、平成16年度末現在で全国で20箇所、同法施行後の平成17年度末時点では、
36箇所となる予定です。しかしこの数では、早期療育に限っただけでも、一つの“発  
達支援センター”が3千人〜9千人の相談と療育を担う計算となります。現在行われて  
いる療育プログラムは、一単位20人またはそれ以下のグループ単位で行われることが  
一般的ですので、現状は大変厳しいと言えます。平成18年度以降の体制を真剣に議論  
する必要があります。                ( >>厚生労働省 予算資料『 あいまいな方向性とその理由 』

 数の遅れを指摘する以前に、現時点では「発達支援センターの方向性」自体があいま  
いである事実を指摘しなければなりません。公的な支援において、「発達支援センター  
の定義付け」自体が定まっていない状況と言って良いと思います。                    

 この様な現状に至っている原因の一つとして、今後の予算配分の見通しに対する不確  
実さに起因するところは当然あると考えられますが、それ以上に“発達支援センター”  
そのものの検証が十分行われていない点が大きな問題と考えられます。“発達支援セン  
ター”の存在意義や方向性を吟味する上で、最低限、必要な部屋の種類や規模、発達障  
害の特性と建築空間との相関関係、建築空間の療育に対する影響力とその効果などを検  
証する必要があると考えられますが、この検証は現在どの機関においても行われており  
ません。                                                                        


『 建築分野の対応の遅れと建築計画的資料の必要性 』

 建築の分野における対応の遅れは更に深刻です。発達障害支援施設についての設計資  
料、事例を掲載した出版物、雑誌記事、研究文献等が、現時点では一切発表されており  
ません。(※1) これだけ多くの人々が支援の対象となる法律が制定されたにも関わらず、
話題にすら上っていない状況です。                                                

 知的障害を前提とした自閉症児支援施設(障害児通園事業)の設計資料や研究文献に  
ついては、以前から少なからず存在しておりますが、新しい法体系における「発達支援  
センター」の位置付けは、従来のこれらの施設とは、対象となる利用者の障害のバリエ  
ーション、年齢の幅、利用の形態や要求される機能のいずれにおいても大きく性格の異  
なるものとなりますので、残念ながら参考資料としては殆んど機能しません。          

 発達支援施設は、特に建築空間がその利用者である子どもたちへ与える影響が大きい  
建物です。計画によっては療育の方向性や効果をも左右します。発達障害を支援する建  
物は、建築空間や構成について特に綿密な配慮をする必要がありますし、良質な空間は  
療育の大きな手助けともなります。その意味でも施設計画の検討のベースとなる建築計  
画的資料の必要性は大きいと考えられます。                                        


『 事例を紹介するにあたって 』
 
 事例を紹介するにあたり、最新の情報とともに、長年の試行錯誤の積み重ねにより改  
良と発展が成された多くの先駆的な施設についても可能な限り取り上げて行きたいと考  
えております。発達支援施設の質は、蓄積された療育ノウハウと、そのノウハウをフィ  
ードバックした建築空間との相乗効果により、共に発展し合う、いわば車の両輪のごと  
き存在であると考えるからです。                                                  


『 支援の輪を広げるために 』

 “発達支援センター”に関する建築設計資料を公開する手段として、今回インターネ  
ットを利用することといたしました。その影響力は決して大きくは無いかも知れません  
が、皆様のご協力でこの資料が支援を必要としているご本人やそのご家族の皆様まで届  
き、何らかのお力となれればと心から願っております。また、既に何らかの形で支援に  
携わってらっしゃる社会福祉法人、医療機関、保育園、幼稚園、学校関係の方々、今後  
の支援の方向性を検討されている自治体など行政関係の方々などにも、広くご活用頂く  
くことにより、少しでも支援の質の向上に貢献できればと願っております。(※1)    

                             2005年4月25日 
                      (有)ナカオアーキオフィス 代表取締役 
                             /建築家 中尾 耕二 



※1 2006年2月、筆者執筆にて、発達障害児支援施設の解説書が出版されました。建築 
  関係書としては初となります。書籍名は『 建築設計資料 104/児童福祉施設 』、
  建築資料研究社より発売です。 見本抜粋版を当ホームページにアップ致しました 
  ので、どうぞご覧ください。                       
  ご購入は、大手書店の他、 amazon.co.jp南洋堂書店ウェブショップ 
  などもご利用頂けます

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